MG物語 第4話 お別れ

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MG物語

入社してから1-2年だろうか。
その期間は大して長いとは記憶していない。

とにかく真面目に仕事をしまくったことだけは覚えているのだ。

悩みを打ち明けてもらうためにも、その業種のことをとことんまで勉強した。
その方の従事している業務についても、漠然ながら雰囲気をイメージしてきた。


そうして真摯に仕事に打ち込んで来たが、そうかあれがきっかけだ。

ボクは常に面談者の方の生活や心境を把握しようと努力して寄り添ってきたつもりだ。
面談を重ねて、お互いの堅苦しさも薄れてきたときのことか。

いつも通りの予約時間に来訪が無かった。
まぁドタキャンなんてのは日常茶飯事なので、それほど気にも留めてはいなかった。

ところが数日が経過して契約先の企業から電話があり、その方が自ら命を絶ってしまったという事実を伝え聞いた。
あれだけお互いに打ち明けられる間柄となり、これからより良くなれると信じていた矢先の出来事だった。


自分の無力さといえばいいのか、何故なのか自分自身を追い込む日々が続いたような気がする。
仕事の間柄とはいえども、顔を見知りお互いに世間話をもしていた人間が、もうこの世にはいない。
存在しない。

明らかに精神的に参っているボクを見て、同僚たちは口を揃えて言った。
「そういうこともある。キミはできる限りのことをした。」
と。

確かに職務上、立場上、できることはやってきたと思う。
また、そう信じることこそが自分の精神的なダメージを軽減していたのだろう。


そしてボクはその件を過ぎてからは、面談者に感情移入をせずに淡々と業務をこなすようになっていったと思う。

ボクに求められることは、つらい人を助けることではない。
医者でもないボクが、死にゆく彼らを助けることはできない。
それを求めることは明らかに職務範囲から外れているのだ。

自分のできる限りのことを、求められる範囲で精いっぱいやることが仕事だろう。
そう考え抜いて、仕事は仕事と割り切って面談者と接することを心に決めたのだった。

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