MG物語 第5話 頭角

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「仕事は仕事、個人は個人。」

そう割り切ってからは、それはエリート街道を駆け抜けるにふさわしい仕事っぷりだったと感じている。

冷静に、常に笑顔を絶やさず。
面談者の方が喜怒哀楽の感情をあらわにしても、常に冷静な対応ができるようになった。

たとえ怒鳴られようと、たとえ面談者が泣き崩れようとも、自分の感情を出す必要もなかったのだ。

淡々と面談者の望むであろう言葉を探し、慎重になだめるように話す。
それだけでほとんどの方は一時的に満たされて、穏やかな感情へと戻っていく。

とにかく面談者には丁重に接し、いわば無難なことをさぞ大げさに説いていくだけだ。
そして手に負えないとわかった場合には、ささっと医者に繋げて任せるだけの日々。

面談者の抱える心のつらさ、暗い闇、そうした類のものは一切考えないようにした。

驚くかもしれないけれどこんな極端な割り切り方を思いついた後はだが、それはそれは会社からの評価が爆上げだった。

半ば機械的に、半ば流れ作業的に。
自分の感情なんてものは一切の無視だ。

どれだけ気分の悪いことをいわれようとも、面談が終わればそれで終了の間柄。
さらにいってしまえば、そんな終わり方をした方にとってみればボクは気に食わないわけ。
もし次の面談があっても、ボクを担当から外すように話を進めるだろうから。

完全な企業マンとして立派に成長したボクは、面談者や顧客からの評判も非常に良かったのだ。
そりゃそうだ。

常にニコニコしながら無難なことをいってトラブルも少ない。
できないことは早くに見切りをつけて、面談者が最も必要な道を示す。
企業の収益モデルを考えたら最適な人材だということは明白だった。

その実、話を逸らしてるだけで何の解決にも至っていなかったことはここだけの秘密だ。

そうして信頼を得たボクはあっという間にチーフへと昇進。
収入も増え、車も少しだけ良いモノになった。

奥さんが美容室に行った際に頼むトリートメントにも新しい香りが追加された。
苦労を掛けた奥さんにもしっかりと恩返しをしたかっただけに、凄く嬉しくて充実した日々だったな。


奥さんのお手製弁当も、おかずが一品多くなったのだ。
さて、今日のお弁当は何だろな、そろそろ待ち遠しくも楽しい昼休みの時間だ。

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