MG物語 第10話 びしょ濡れ

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久々の外出ということで着こなしてきたピンクのポロシャツ。

奥さんとのデートを満喫したいだけだった。
奥さんの労をねぎらいたいだけだった。

奥さんとの楽しい食事で、鬱屈とした気分を晴らしたかった。

それだけの願いをかなえることも、ボクにはもはやできなくなっていたのだ。

口から流れ出たビールでポロシャツはびしょ濡れだ。
病院へ行かなくては、もうどうにも手の施しようがないのもわかっていた。

それでもボクは一度家に帰って、シャツを着替えてから病院へ行くことに決めたのだった。

・・・


帰りのバスではお互いに無言。
状況が状況だけに、さすがに笑い話ができる雰囲気でもなく。

ガタガタと揺れるバスの動きに合わせて首と肩に走る痛み。
それでも目をつむって深呼吸したと思う。

まずは帰宅してからシャツの着替えだ。
病院に電話をしたところ、1時間後であればすぐに診察ができるとのこと。

僅かばかりの時間、ボクはベッドに横たわって気持ちを落ち着かせようとした。

「焼き鳥屋で突然襲ってきた症状の話、どう説明すれば良いのだろう。」

そんなことを考えて、少しだけ寝てしまったようだ。
奥さんが優しく身体を揺すって起こしてくれた後のことはよく覚えている。


病院に行って先生にナンコツ串、ビールの話、そして症状の説明とをつらつらとする。

今までの経緯を話してみても、先生の反応はいまいちといったところ。
実際に診察室で紙のような物を噛締めてみても問題はない。
コップに入った水も普通に飲める。

要はボクの身体には何も問題が見当たらないのだ。

先生の考えとしては、よくわからない。
けれどもストレス的なものが影響している可能性もあるらしい。

ますますわからない。
ボクはウソをついたり大げさな芝居をしている訳でもないのだ。

ボクの身体に何が起こっているんだ。

原因のわからないイライラと体調不良とが合わさって、頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだった。

精神科の受診を勧められるも、正直どうして良いのかすらわからない。
休職中の倹約モードの中、もう病院に新しく掛かるほどのお金も厳しい状況になってしまっていた。

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