MG物語 第9話 噛締める喜び

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その後ボクは、徐々に蝕まれる身体への恐怖から仕事を休職することになった。

実際には仕事どころではなかったのだ。
身体が動かなくなる恐怖と、強烈な痛み。
心も弱りきっていたことを覚えている。

それでもボクには奥さんがいた。
弱りきっていたボクを懸命に励ましてくれた。
なるべく身体を労わるように、身の回りの世話もイヤな顔せずにしてくれた。

何もやる気が起きずに、日がな一日中ベッドに横たわっている。
不健康なボクの生活を心配した奥さんは、しっかりと栄養が摂れるように3食を用意してくれたのだ。
本当に感謝の言葉しかない。

そのような生活を送るボク。
療養中大人しく生活をしていれば、きっと良くなって職場復帰もできると信じていた。
確かにベッドで寝ている時間は多かったけれども、仕事のストレスから解放されたからかいくらか楽にも感じたと思う。

あれ以降、左手の指が動かなくなるなんてことも起こっていない。
やっぱりストレス的なものだったのかなぁ。
と、いくらか安堵するボクだ。

まさか。
あんな強烈な症状が出始めるとも知らないボクは幸せだったと思う。

家事や料理に奮闘する奥さんを労うのは、いつものお店。
焼き鳥をたらふくほうばって、焼き鳥にはビールとくれば、相性もバッチリだ。

小汚い店だからこその、美味しさ抜群ってのはあるかもしれない。

・・・。

少し早めのディナーを二人で楽しんでいるときに突如現れたそいつ。
間違いなく「ナンコツ串」を食べているときにやってきた。

ナンコツはバリバリと音を立てて食べる爽快感があるのだ。

ところが徐々に徐々に・・・顎が疲れて重くなってくる。
バリバリどころか、ハムハムすら噛めなくなってきた。

そして遂に。
歯で噛締めることができなくなった。
どうにもならない。

指が動かなくなったときの比ではないほどパニックに陥った。
それでも冷静に奥さんに状況を伝え、病院へ行くことを決める。

とりあえず口に残ったナンコツを吐き出すも、どうにも違和感があった。
会計を済ませ、残ったビールを流し込む・・・。

ダラーンと力ない唇から胸元に流れるビール。
ビールを飲みこもうにも、すでにノドから飲み込むことすらボクの身体はできなくなっていたのだ。

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